退職後のお金の不安は、今から対策しておくことが大切です。数年前に老後2000万円問題が取り沙汰され、世間が大騒ぎになりました。退職後の暮らしには一体いくら必要になるのか、不安ですよね。
ある調査データによると、老後の生活が経済的に苦しくなる不安に対し「経済的準備をしている」と回答した人は約1割にとどまりました。[*1]
残りの約8割の人たちは、老後に漠然とした不安を抱えつつも、その準備ができていないと回答しています。
本記事では、老後の暮らしには具体的にどれだけお金が必要になるのかについてと、不安を少しでも減らすために今できる対策について解説します。
[*1] (公財)生命保険文化センター「2022(令和4)年度「生活保障に関する調査」(2022年10月発行)」
2019年に、金融庁が「年金だけでは老後資産が2000万円足りない」という内容の報告書を発表し、世間に大きな衝撃が走りました。当時ニュースを見て不安を感じた人も多かったのではないでしょうか。
報告書では、夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯では毎月約5万円の収支赤字が生じるため、長生きした場合、30年間の不足額が約2,000万円に上ると試算しています。 [*2]
ただこの数字はあくまで、平均的なロールモデルのケースであり、数字だけ見て動揺するのは性急です。働き方やライフスタイルによって、2,000万円あっても全然足りない人もいれば、そこまで必要ではない人もいます。自分の場合はどうなのかを知らなければ意味がありません。
[*2] 金融庁ウェブサイト 金融審議会 「市場ワーキング・グループ」報告書 の公表について(https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603.html)を加工して作成
総務省家計調査(2021年)によると、「65歳以上の夫婦高齢者無職世帯の支出平均」は約25万円となっています。 [*3]
現役時代と比較して老後にどれくらいのお金が必要になるのかについては、老後どのような暮らしをするかによっても変わってきます。
子どもが独立し、住宅ローンも完済していれば、現役時代の7割くらいになる人もいるでしょうし、独身で持ち家もないので生活があまり変わらない場合は9割くらいになる人もいるでしょう。贅沢な暮らしをしたいのか、質素な暮らしでいいのかによっても必要な資金は変わります。
住宅費などの固定費がどの程度になるのかを加味して、自分の場合は月にいくら必要なのかを計算してみましょう。
65歳以上の夫婦高齢者無職世帯、および高齢単身無職世帯の1ヶ月の家計収支は下記のグラフを参考にしてみてください。(図1.2)[*3]
[*3]家計調査報告(家計収支編)2021年(令和3年)家計の概要 総務省統計局(https://www.stat.go.jp/data/kakei/2021np/index.html)を加工して作成
老後の生活費の不安を解消するために、今すぐ始められる対策には次のようなものがあります。
できるものから対策を始めて、老後のお金の不安に今から備えておくと安心ですね。
今現在の収入と支出、将来にわたって続く予定の収支を把握しましょう。
家計簿をつける習慣がない人は、家計簿アプリを導入したり、クレジットカードの明細をエクセルデータに記入したりして、現在のお金の流れを把握しましょう。
固定費にムダはないか、老後の生活設計で削れそうなところはないかを考えてみましょう。見直しのポイントは下記を参考にしてください。
・賃貸の場合、家賃の安い物件やエリアへの引っ越しを検討する
・持ち家の場合、現在の金利よりも低い住宅ローンへの借り換えを検討する
・加入保険の保障内容や保障金額を見直す
・電気・ガス会社の契約プラン見直し、他社への乗り換えを検討する
・スマートフォンを格安SIMに変える
・使用頻度の少ないサブスクリプションサービスを解約する
・ふるさと納税、NISA、iDeCoなど、税金優遇サービスを活用して節税する
・車を手放して、自転車通勤にする
子どもの結婚や親の介護など、ライフイベントにかかわる大きな費用や、将来、自分が病気になったり介護が必要になったりしたときの、もしもの費用など、生活費とは別に必要になるお金を計算しましょう。
一般的に、もしもの時に必要となる緊急資金として、生活費の3ヶ月〜1年分があると安心です。
また、旅行にはどのくらいの頻度で行きたいかなど、趣味や娯楽に使いたいお金や自分の理想の暮らしを具体的に想像しながら、ライフプランニングシート[*5]を作成してみましょう。
さまざまな条件を変えることによって、実際の収支の予測ができます。
ライフプランニングシートができたら、必要な収入と支出を計算して、どのくらいお金が足りないのかを計算しましょう。
ファイナンシャルプランナーなど、プロの力を借りて、「キャッシュフロー表」を作るのもおすすめです。キャッシュフロー表とは、年間のキャッシュフローを表にまとめたものです。キャッシュフロー表を作ることで、現在のお金の状況と、将来かかる支出の変動を数字やグラフで明確にすることが可能です。
貯蓄の残高がどのように推移していくのかが一目瞭然になるため、希望通りのライフプランが実現できるのかを判断する材料にもなります。プロに頼む方法以外にも、日本FP協会が無料で公開しているキャッシュフロー表をダウンロードしたり、専用ソフトで自分で作成したりすることもできます。
老後の資金として足りない金額がわかったら、その分をどうやって補うのかの対策を立てましょう。
勤労年数を伸ばす、スキルアップや転職で収入を増やす、副業を始める、投資で資産運用する、年金の支給開始年齢を繰り下げて支給額を増やすなど、自分に合ったものを考えてみましょう。
国は今、老後の資産を増やすため、国民に「投資」を積極的に推奨しています。そのための税制優遇制度も拡充しているので、そういったものも活用して、安心な老後を迎える準備を始めましょう。
世界的な経済情勢や国の金融政策などによっても、私たちの暮らしは大きく変化します。お金の設計は一度立てたら、定期的に見直す作業も必要です。
[*5] 現在から20~30年先までの家計収支を1枚のシートにまとめ、見える化したもの
老後の生活に不安を抱える人が、今やるべき対策をまとめました。
人は、自分が予想できないものや、目に見えないものに対しては漠然と不安を感じるものです。お金の不安をなくすには、現在のお金の流れを把握し、将来に渡って必要な収入と支出を計算して見える化すると安心ですね。
まずはライフプランやキャリアプランをしっかり立てて、将来に備えましょう。